言行不一致のお母さん
おやつに頂きもののクッキーを食べていると「これはなかなかの味だね」と、三歳の和弘君がおじいちゃんそっくりの口調で言ったので皆大笑いしました。
和弘君は、この頃大人の口調を真似て、それをタイミングよく使いこなしてしまうのです。
今日はどんな場面で、どんな言葉が和弘君の口から出てくるかと、お母さんは楽しみにしています。
和弘君がミニカーを走らせていたときのことです。
洗濯物を干しにお母さんがその前を通ろうとしたところ、和弘君が「おい、どけ!」とどなったのです。
ミニカーを走らせるのに、お母さんが邪魔なところにきたからです。
実は先日、和弘君が居間で遊んでいたとき、お父さんに「おい、どけ」と言われたので、それを真似たのでした。
お母さんは思わずどいてしまいましたが、これから親に向かってこんな言い方をされたら困ると思って、「おい、どけ!」なんて言い方をしないで「お母さん、どいてくれる?」って言うのよ」と言いきかせました。
けれど和弘君の「おい、どけ!」は、直りませんでした。
というのは、そんな言い方をしてはいけないと言いきかせても、お母さんがどいてしまうため、和弘君が言い方を直す必然性がないからです。
「おい、どけ!」とお母さんにどなったら、正しい言い方を教えると同時に、そんな言い方をしたときは、どかないという毅然とした態度を見せなければ、和弘君の口調は直らないでしょう。
また、和弘君は好き嫌いの多い子です。
お母さんはちゃんと野菜を食べてもらいたいと、調理にいろいろ工夫していますが、和弘君はせっかくお母さんが作った野菜料理をほとんど食べません。
食事は、トマト、うどん、ヨーグルトの繰り返しです。
ある日も、こんな場面が食卓で繰り広げられました。
「うどん、お代わり」と和弘君。
「大根の煮たのを食べようね。うどんばっかりじゃダメ」
「大根なんかいや!うどんがいい!」
「もう、せっかく作ったのに」とつぶやきながら、お母さんは少しでも和弘君に多く食べてほしいので、うどんをあげてしまいます。
「うどんが食べられたんだから、今度は大根の煮たのを食べようね」
「いらない」
「大根食べたら、ヨーグルトあげるから」
「ヨーグルト?ヨーグルトがいい、ヨーグルト食べる。ヨーグルトー!」
和弘君の耳には、もう大根の話など聞こえてきません。
「ヨーグルト」と叫び続ける和弘君に押し切られて、結局お母さんは大根を食べさせないで、ヨーグルトをあげてしまいます。
和弘君のお母さんは、頭ではこうしなければいけないという正しい考えを持っているのですが、自分の言葉を実行する強さを持たず、最後には子どもに押し切られてしまうのです。