子どもの心を押さえつける「絶対権力者」
丈二君のお父さんは、家庭のなかで絶対の権力者で、食事のメニューまで決めてしまうのです。
しつけというよりは、どんなことでも自分の「言うことをきかせてしまう」のです。
お母さんも、丈二君も、お父さんには逆らえません。
例えば、夏休みの朝、突然五時に起こされて「今すぐ海に行くぞ!」と言われる。
丈二君は取り残されるのが怖くて、眠い目をこすりながらついていく。
何度もあくびをしていると、叱られる。
叱られた理由が納得できなくても怒られるのがイヤだから反論しない。
泣いているとよけいに怒られるから、口をへの字にしてガマンしてしまうといった具合です。
友だち関係や持ち物にまで、お父さんは口を出します。
丈二君はなかなか自分の気持ちを伝えることができませんでしたが、十歳のある日、勇気を出して「自由になりたい」と、お母さんに打ち明けたのです。
そしたら、「自由になりたいとは何事か」と夜中、お父さんに起こされたのです。
それ以来、丈二君は二度と本当の気持ちを両親に話すまいと決心し、ますます自分のなかに閉じこもってしまうようになりました。
丈二君は家のなかだけではなく、外でも自分の本当の気持ちを言うことができません。
丈二君はおとなしくきき分けのよい子として、先生から評価されていましたが、丈二君が自分の意見を言わないのをいいことに、丈二君をいじめる子も少なからずいたのです。
ですから、丈二君は、家庭でも学校でも心から楽しめるということは、めったにありませんでした。
丈二君のような子どもが、「よい子」であることに疲れてしまったときには、ひきこもってしまったり、爆発してしまったり、さまざまな形で問題が起こる場合が少なくありません。
子どもが幼いうちは、親が生活のイニシアティブ(主導権)をとることは決して悪いことではありませんが、親がいつまでも「絶対の権力者」であり続けると、子どもが「言うことをきくよい子」に見えても、心のなかにさまざまなストレスをため込んでいる場合が往々にしてあるものです。
あなたの「しつけ」がそうした子どもを育ててはいないか、よく考えていただきたいと思います。