上の子を大人扱いにしてはいませんか?
一枚の写真があります。
真っ白なバスタオルに包まれた生まれたての赤ちゃんを抱くお母さん。
その周りを取り囲むようにお父さん、おじいちゃん、おばあちゃんが微笑んでいます。
しかし何より興味深いのは、部屋の隅で指をくわえながらその様子を眺めている女の子の姿です。
上目づかいに赤ちゃんを見るその子の表情には、赤ちゃんに興味はあるもののお母さんを赤ちゃんに取られてしまった複雑な気持ちがハッキリとあらわれています。
その周りには同じ部屋にいながらも、ぽつんと自分一人取り残されてしまったような空気が漂っていました。
この写真はアマチュア写真家である母方の祖母が「小さな赤ちゃんの存在は誰にとってもいとおしいものです。ただし、その喜びを素直に感じられない上の子どもの気持ちも忘れないで。」というメッセージを込めてそっと撮ったものでした。
見たことがない長女の寂しげな表情を写真で見た母親は、祖母がどのような思いでシャッターをきったのかがよく理解できました。
「百聞は一見に如かず」の言葉通り、一枚の写真がものを言わずとも上の子どもの気持ちをよくあらわしていたからです。
我が家に「愛人がやってきた?」
赤ちゃん誕生までは一家の主人公のように振る舞ってきた上の子どもでした。
なのに赤ちゃん誕生と共に、家族の注目が赤ちゃんに集中するのですから、不愉快な気持ちになるのも当然のことです。
両親をはじめ家族は、上の子どもの複雑な気持ちを理解し、できるだけ上の子どもに配慮するよう心掛けてはいるのでしょうが、赤ちゃんをうっとりと見つめる視線や赤ちゃんに投げかける特別にやわらかい声は、無意識に出てしまうもの。
そんな様子を、上の子は大人が考えている以上に鋭く見聞きしています。
赤ちゃんが家にやってきたときの上の子の気持ちをたとえるならば「夫が突然、自分より若くて可愛い愛人を連れてきた」ようなもの。
そう考えると、「さあ、今日からあなたはお兄ちゃん(お姉ちゃん)だから、赤ちゃんを可愛がってあげてね」と言われても納得するどころか、嫉妬の炎がメラメラと燃えてしまうのも理解できるのではないでしょうか。
関心を引くために、親を困らせる子ども
赤ちゃんが生まれるまでは、何でも自分でやりたがっていた真央ちゃん。
三歳ちがいの妹が生まれると、突然性格が変わったかのように親を困らせるような行動をとるようになりました。
自分で食べていた食事も食べさせてほしいと駄々をこね、コップで飲んでいたお茶も哺乳瓶で飲みたいとすっかり赤ちゃん返り。
眠っている赤ちゃんを起こしたり、つねったり。
しまいには赤ちゃんの顔の上にハンカチをのせたことで、お母さんもついに爆発。
「赤ちゃんの世話だけでも忙しいというのに、自分でできることまでやらなくなったうえに、せっかく眠った赤ちゃんを起こして仕事を増やしてくれるのだから、本当に腹が立ちます。
以前は優しい子どもだったのに、私の見ていないところで抵抗もできない赤ちゃんに手を出すようにもなって・・・。
正直言って下の子どもが生まれてからというもの、真央が可愛く思えないのです」と周囲にに相談を持ちかけたのです。
お母さんと子どもの関係がすっかり悪循環になっているケースです。
ここで大切なことは、真央ちゃんの親を困らせる行為は、お母さんの関心を自分に向かせるためにやっていることだとお母さんが理解することです。
真央ちゃんはたとえ叱られることでもいいから、とにかくお母さんに自分を見てほしい、自分に注目してほしい、自分を無視しないでほしいという気持ちでいっぱいなはず。
本当はお母さんを困らせたいのではなく、お母さんにかまってほしいだけなのです。
そんな子どもの気持ちを理解できるようになったお母さんは、その後真央ちゃんに対して腹が立つというより、子どもが自分にSOSを発信しているサインだと思えるようになりました。
上の子どもに変わらぬ愛情を伝えるには
「母親に愛されている実感を感じられるようになれば、上の子はきつと下の子どもを可愛がるようになる」という言葉を信じて、真央ちゃんのお母さんは育児相談のアドバイスを実践し始めました。
まず赤ちゃんが眠っている間に真央ちゃんをぎゅつと抱きしめて、「ママは真央ちゃんが一番好きよ。
でもこのことは絶対に誰にも言ってはダメ。
ママと真央ちゃんの秘密ね~」と、お母さんの変わらぬ愛情を真央ちゃんに伝えることから始めました(これはもちろん、下の子どもにも同じことをやっているのですが・・・)。
赤ちゃんが生まれてからすっかりできなくなった絵本の読み聞かせも再開しました。
パパに赤ちゃんを見てもらっている間に、駅前のドーナッツ屋さんで真央ちゃんと二人、内緒のデートを楽しんだりもしました。
何より効果的であったのは、真央ちゃんの成長アルバムめくり。
誕生の写真から始まって、沐浴シーン、おっぱいを飲んでいるところ、泣いている真央ちゃんを抱いているお母さん、口の周りをベタベタにして食べている離乳食、初めての一歩。
どの写真を見ても真央ちゃんが家族の愛情をいっぱい受けて育ったことが一目瞭然です。
アルバムをめくりながら「真央ちゃんが無事生まれてきてくれて、お母さんは本当に嬉しかったのよ」など、絵本を読むようにお話をしながらページをめくっていくのです。
「赤ちゃんばっかり可愛がって・・・」とふてくされていた真央ちゃんの心のなかにも、お母さんの温かい気持ちが射し込んでいったのです。
お母さんの気持ちが通じて、真央ちゃんはその後すっかり面倒見のよいお姉ちゃんになりました。