嗅覚は基本的に身を守る感覚ですが、味覚に比べて非常に記憶に残ります。
「あのときの、あれがおいしい」という記憶は、舌を通した味そのものよりも、「風味」や「香り」であることが多いのです。
風味は口の中に入れてから鼻に抜けるにおいを言い、味覚とは別のものです。
また、鼻から直接入るにおいを香りといいます。
子どもに伝えたい日本の味のひとつに、だしの味があります。
だしは、風味と香り、それに人間が本能的に好きなうま味をあわせ持つので、一度覚えるとまた欲しくなります。
それは、タンパク質をうま味成分として脳に伝達してくれる、本能が教えてくれるおいしさです。
スナック菓子やハンバーガーなども、本能的に好むたんぱく質、糖質、油脂、塩類の味を強調した食べ物です。
これを嫌いな子どもはまずいません。
嗜好が育つ前に、この味を覚えてしまうと、デリケートで比較的インパクトが小さい和食のだしの味は、子どもにとり魅力を感じることができなくなります。
スナック菓子やハンバーガーをたまに食べることはかまわないと思いますが、毎日続くようでは、栄養のバランスのとれた食生活を送ることはできません。
これからの子どもたちには、和食の味わいがわかるようになってほしいと思っています。
「味覚」という文化を共有し、伝えていくことは、人としてのべースになると思うからです。
とりわけだしの深い味わいは、日本人が親から子へと伝えてきたもので、りっぱな文化です。
また、伝統的な食事は、その国に住む人の体質にも合っているものです。
ごはんが好きで、だしの微妙な味がわかる子どもに育てられたら、子育ては成功だと思います。