お母さんは何でもやってくれる人?

Kさんが台所に立っていると、隣の部屋から、「おかあさーん!」と二歳の美香ちゃんの呼ぶ声がします。

Kさんは料理をする手を止めて、美香ちゃんのところへ駆けつけてセッセと遊びの相手をしてあげます。

 

ブロック遊びをやっていたかと思うとビデオを観たがる。

そのうち飽きて「ねえねえお母さん、ご本、読んで~」。

Kさんはその度に仕事の手を休めて根気よく付き合うのです。

 

美香ちゃんはとても育てやすい子で、めったに泣くこともありません。

Kさんは美香ちゃんを、目に入れても痛くないほど可愛がっています。

 

でもその可愛がり方は、冷静によく考えてみると心配なことばかりです。

 

「ごはんですよ」の声で、美香ちゃんがテーブルにつくと、Kさんはまずぬれたタオルで手を拭いてあげます。

美香ちゃんは自分から、食べようとしません。

食べたいものを指差すだけで、お母さんが口のなかへ入れてくれるのを待っています。

Kさんは、まだフォークやスプーンも上手に使えないのだから仕方がないこと、そのうち自分で食べるようになると思っています。

 

Kさんは、美香ちゃんを育てることが自分の生き甲斐だと思っています。

そして、可愛くて素直な美香ちゃんは今のところ、Kさんの期待に十分応えています。

よそのうちのように、子どもが大泣きをすることもなければ、Kさんが子どもにどなる声も聞こえません。

 

「本当に穏やかに、子育てをさせてくれる子」と、Kさんは自分が「幸せ」な母親であることに誇りを持っています。

 

可愛らしさに溺れて見過ごす子育ての落とし穴!?

 

 

でもKさんは知らないのです。

 

この「幸せ」は、Kさんが子どもの欲求を、全部きき入れてしまうから成り立っているという現実を。

 

毎日、夜9時頃になるとKさんはヘトヘトになっています。

美香ちゃんの世話に振りまわされて、疲労困ぱいしてしまうからです。

 

それなのに美香ちゃんは、まだ元気です。

「アレする」「コレやる」と言われる度にKさんは、おもちゃを次々と出したり入れたりしなければなりません。

 

ようやく「美香ちゃん、眠いよう」と言い出すのは、11時を回っています。

バンザイ、と添い寝をすると1分で眠ってしまいます。

それもKさんの誇りのタネです。

 

Kさんは気づいていません。

美香ちゃんは「この世が何でも自分の思い通りになる」と考える、自己中心的に考えてしまう子どもになりかかっていることを。

 

美香ちゃんの仕草や言葉の可愛らしさにKさんは溺れていて、自分では何もできない子になりかかっていることに気づいていないのでした。