叱り飛ばすけど、甘いお母さん
義久君は二人兄弟の末っ子です。
どういうわけか、いつもお母さんが叱り飛ばす対象になっています。
長男の健司君は動作が早く、気のきく性格なのに、義久君はのみこみが遅くて動きものんびりしているからです。
幼稚園に入園する直前、お母さんのKさんは義久君に毎朝着替えの練習をさせていました。
もう一人でできるだろうと、Kさんは「起きなさい!」と声をかけてから、最初は知らないふりをするのですが、そのうちやっぱり手伝ってしまいます。
知らないふりしていると、いつまでもできないままだからです。
そして手伝いながら、「いつもあんたはそうなんだから。もうすぐ幼稚園なのに入れてもらえないかもしれないよ」と脅すのでした。
でも結局、最後はKさんが着替えさせるのです。
「早く、早く」というのがKさんの口癖です。
義久君のグズはその声で、かえって拍車がかかるような感じです。
義久君は、落とし物もいつもしてしまいます。
学校に持っていく大切なお金をなくしてしまったのは、一度や二度ではありません。
その度にKさんは、「あんたはまた!」と叱りつけるのですが、性懲りもなく繰り返すのでした。
もう一人は、誠治君の場合です。
小さい頃から身体がそんなに丈夫ではなかった誠治君は、いつもお母さんのUさんに守られてきました。
風邪をひくとノドにガーゼを巻き、マスクをして登園や登校をします。
Uさんはおとなしい誠治君が可愛くて仕方がありません。
しかし六年生になった最近は、二昔前多くの夫たちが、「ふろ」「めし」[寝る」といった言葉しか口に出さなかったように、誠治君は何かが欲しいときだけは口をききますが、ろくろく口をきかなくなりました。
部屋も散らかし放題です。
以前のようにUさんに怒られたとき一応言うことをきく、ということもなくなってきました。
Uさんは、早目の思春期が来たのかしら、と困りながらも楽観的です。
しかし、ことはそれほど単純ではありません。
誠治君や義久君のように、反抗的でも暴力的でもなく、のんびりした可愛い子なのに、いつの間にか万事に「やる気」がなく、横着に構えている子どもが増えてきています。