言葉の大切さを忘れてはいませんか?

子どもに物事の良し悪しを伝えることは、時として難しく思うことがあります。

2歳9カ月の里子ちゃんは、お母さんと買い物に行く途中で、綺麗な花壇を見つけました。

ガーデニングを楽しむ人々が増えて、庭先や家の前にまで、色とりどりの花を見ることができます。

お母さんがちょっと目を離したすきに、里子ちゃんは智子さんの家のプランターから、チユーリップを一本もぎ取ってしまいました。

お母さんはわが子の行動に、一瞬、言葉を失いました。

でもすぐに、「よその家の花を勝手に取ってはいけません」と里子ちゃんを叱りました。

そして里子ちゃんを連れて、智子さんの家へお詫びに行ったのです。

数日後、里子ちゃん一家が郊外へ出かけたときのこと、野原一面には可憐なシロツメクサが咲いています。

お母さんが里子ちゃんに花の冠を作ろうと、シロツメクサを摘み始めたとき、里子ちゃんはお母さんに尋ねます。

「このお花は取ってもいいの?」里子ちゃんは、先日のチューリップを取って叱られたことを思いだしたのです。

お母さんはしばらく考えてから、こう答えました。

「この間のチューリップは、あのお家の方が大事に育てたお花だから、絶対に取ってはいけないけれど、これは誰のものでもないから、少しだけならいいのよ」。

誰のものでもなければいいの?」。

説明しているお母さんも、これで里子ちゃんが納得するかどうか自信はありませんでした

お母さんは少し考えて、「お花には名前が書いてないから、すぐに誰のものかわからないよね。だから、原っぱでお花を摘みたいときは、ママに聞いてね。そのときママが摘んでもいい場所だとわかったら、OKって教えてあげる」

「うん、わかった」

少し前まで、どこにでもあった原っぱや空き地は、あまり見かけなくなってしまいました。

草花で花の冠や首飾りを作って遊ぶことも、なかなか難しいご時世です。

せめて郊外に出たときは、たくさん自然に触れさせてあげたいと願うのですが、子どもの目から見ると、野原の草木もプランターの花も同じです。

最近では、心ない登山者による乱獲で、貴重な高山植物の絶滅を危ぶむというニュースも耳にします。

野生のものなら摘んでもよい、とは簡単に言えません。

子どもに説明するのは、苦心することも多いことでしょう。

「ダメ」と一口で済ませるのは手早い方法ですが、純粋な心を持つ子どもだからこそ、なぜいけないのか、どうしてなのかをきちんと説明することが、大切なことなのではないでしょうか。

 

自分の気持ちを言葉で伝える

4歳の達弘君は昆虫が大好きです。

今年の夏は昆虫採集に明け暮れました。

セミやカミキリムシ・オオカマキリ、コカマキリ、ミヤマアカネ、ギンヤンマ、捕まえてきては図鑑を手にそれぞれの名前を調べます。

「セミはねえ、このストローで蜜を吸うんだよ。ほら、ここで」

「わあ本当、ストローそっくり!」

「だからセミは木の蜜を吸えるんだよ」

「へぇー、そうなの・・・」

夜寝る前には、耳をすませます。

「ねえ、ねえ、聞こえる?」

「えっ、何が?」

「リリーン・リリリーンって鳴いてるよ。」

「あの声はアオマツムシかな?スズムシかな?」

いつのまにかすっかり詳しくなっているのです。

達弘君のように子どもは、好きなもの、知りたいと思うことには興味を示し、名前や特徴をどんどん覚えていきます。

その一つ一つの発見を、知っている言葉を駆使して、身近な大人たちに一生懸命に説明することもあるでしょう。

子どもが自分で考え、言葉にして伝える。

それが大人に認めてもらえたとき、子どもの心には嬉しさと共に、もっと知りたいという意欲が芽生えます。

そんなとき大人は、子どもの発見や感動を上手に共感しながら受け止めてあげる、すると子どもは、興味の幅をさらに広げていくことができるのです。

言葉は、決して一方的に教えるものではなく、日常のなかで交わされる対話によって育まれていくものなのです。

保育園、年中組の響子ちゃん。

担任の先生がしばらくの間、病気でお休みになってしまいました。

代わりに若いS先生が響子ちゃんのクラスにやってきました。

ちょうど運動会や遠足などいろんな行事もあって、S先生もすぐにうちとけ、子どもたちとも楽しく過ごしていきました。

3カ月が経った頃、担任の先生の具合も良くなり、S先生ともお別れする日がやってきました。

響子ちゃんのお母さんが夕方、いつものようにお迎えに来たときのこと。

響子ちゃんは自分の荷物を持って、お母さんといったん帰りかけたのですが、急にくるりと向きを変えてS先生に近づいて行き、耳元で何かを囁きました。

それを聞いたS先生は嬉しそうに笑ってコッ、クリ頷いています。

帰り道、お母さんは「さっき、何をお話ししてたの?」と響子ちゃんに尋ねてみました。

すると、響子ちゃんは「『いつまでも元気でね』って言ったの」と恥ずかしそうに教えてくれたのです。

響子ちゃんのように、自分の気持ちを素直に言葉で表現できる子は、人の言うこともちゃんときける、優しい思いやりのある人に成長していくことでしょう。